M&Aというディール(取引)は、同じスキーム(手法)を用い、同種、同規模の会社が行っても、その売却価格に大きな差が出ることがあります。それはまず、第一にM&Aの売買価格は、売手側企業の希望売却価格と買手側企業の希望買収価格を、M&Aアドバイザーなどの事業者が仲介することで、決まっていくオークション方式の売買契約であることによります。次に、個々のM&Aの中で、売手側企業・買手側企業それぞれが求めるものが異なるためです。特に、買手側企業にとって売手側企業が経営戦略上必要な会社であれば、多少無理をしてでも高く買うこともあります。一方、それほど必要のない会社や、それほど魅力を感じない会社の場合、安く買い叩かれることもあります。
一般的に、高く売れやすい会社、あるいは安く買い叩かれてしまう会社には、それぞれある共通した要素が見られます。高く売れやすい会社であれば、直近における経営成績がよい、粉飾決算、不正経理が行われていない、デューデリジェンス(DD)を行っても簿外債務、訴訟リスクなどがない、そして買手側企業の経営戦略上不可欠な技術・技能・ノウハウ・顧客・人材などの経営資源を持っているといったことです。一方で、安く買い叩かれてしまう会社にも同じように共通した要素があります。
では、M&Aで安く買い叩かれてしまう会社の要素や原因などについて見ていくことにします。
M&Aで安く買い叩かれてしまう会社の要素や原因は?
M&Aで安く買い叩かれてしまう会社に共通する要素、あるいは原因といったものについて、具体的に見ていきましょう。
安く買い叩かれてしまう会社の要素・原因
買手側企業にとって経営戦略上の必要性やメリットがない
買手側企業では、何らかの経営戦略の目的を持ってM&Aを行います。ある会社では、M&Aによる統合で財務シナジー効果を発揮し、継続的な企業価値の創造が目的であったり、またある企業ではコストシナジー効果により経費を圧縮して収益・利益を高めていくことが目的であったりします。あるいは、経営不振の会社の救済、新規事業展開のため、当該会社を合併したり、買収することもあります。このようなさまざまな経営戦略上の目的のために有用な人材・技術・設備・技能・ノウハウ・顧客・ビジネスモデルといった経営資源があれば多少無理をしても高く買います。しかし、こうしたものを持っていない会社、あるいは持ち合わせていてもこうした技術・技能といった有用な経営資源を使いこなす人材がいなかったり、すでに高齢化していたり、必要な生産設備が老朽化し、新たな設備投資が必要になっているような会社では、高く売ることが難しくなります。残念なことに、思いのほかこうした企業が売手側に多いのです。
企業ライフサイクルの衰退期に入ってしまった
会社も人と同じように、企業あるいは事業にライフサイクルがあります。創業期→成長期→成熟期→衰退期といったものです。成熟期の後半から衰退期に入った会社は、よほどの社内留保としてのキャッシュフローがあるか、同業他社には真似できない技術・技能・特許などの経営資源がないと高く売れにくくなってしまいます。
また業界そのものが成熟期以降にあり、業界再編が一巡し、独占・寡占化された業界では、積極的にM&Aを実施する業界大手の企業が当面現れるとは考えられません。
直近における財務状況が悪い
直近3年から5年における財務内容が思わしくなく、債務超過に陥るおそれがあるような会社では、同業他社に対する競争優位となる経営資源がなければ、ほとんどの場合、M&Aによる売買の対象となることは考えられません。仮にこうした経営資源を持ち合わせていても適当に買い叩かれてしまうことが少なくありません。
その他、安く買い叩かれてしまう要素や原因
売手側企業の経営者が信頼できない、経営者として問題があるような場合も、安く買い叩かれてしまう要素や原因なることが少なからず見られます。M&Aのトップ面談・交渉では、売手側経営トップと買手側経営トップとの信頼関係の構築ができるかどうかで、その後のM&Aが成功するか決まります。特に、中小企業や小規模事業者でのM&Aでは大企業のM&Aに比べ、その信頼関係は重要です。
最初の面談で、いきなり法外な売却価格を提示したり、不遜な態度で面談・交渉に臨むと、相手側経営トップの心象は悪くなり、最悪M&Aそのものが中止することにもなりかねません。
そのほかにも、積極的に情報開示に応じず、後日デューデリジェンス(DD)の結果、簿外債務や追徴課税などが発見されたりして、売却価格や条件が大きく後退したり、M&Aそのものがブレイクしてしまうこともあります。
このような要素や原因が見られる会社では、買手側企業から安く買い叩かれてしまうか、M&Aの交渉を切り上げられてしまうことになります。
M&Aでは、高く売れる会社もあれば、安く買い叩かれてしまう会社もあるのが現実です。そこで、M&Aで少しでも高く、あるいは有利な条件で売却するためには、前述のように安く買い叩かれてしまうような要素・原因について、十分な対策を立てる一方で高く売れる要素を増やして行く努力が必要です。