M&Aのスキームを大きく分けると、支配権を目的としたものと、目的としないものになります。前者は、「合併」、「会社分割」、「株式交換・株式移転」といった会社法上の組織再編行為と、「株式譲渡」、「事業譲渡」、「新株引受」などの取引行為として行われるものがあります。また、後者には「業務提携」、「資本・業務提携」、「合弁(JV)」といった「提携(アライアンス)」があります。そして、企業はさまざまな目的や思惑などから、これらスキームを選んでM&Aを行っています。会社を少しでも高く売りたいという目的や思惑もそのひとつです。
 そこで、M&Aで会社を高く売るためのスキームを選ぶ際の留意点と、そのスキームを使った高く売る交渉テクニックなどについて解説してみたいと思います。

会社を高く売るためのスキームを選ぶ際の留意点

 大企業から中小企業のM&A全般について留意すべき点としては、次のようものがあります。

「M&A戦略」の策定

 M&Aは手段であって目的ではありません。なぜM&Aを行うのか目的をはっきりさせておくこと。そして、それを社内で共有することです。
 経営戦略上の目的を達成するための手段として、また、事業承継上の出口戦略の一手段として明確にしておくことです。
 この点を曖昧にしたままでは、どのようなM&Aスキームを採用しても、最終的にうまくいかなくなってしまいます。

支配権の獲得について

 一方の事業者である企業が、他方の企業をその支配下におき、M&Aの目的を達成していくのか、穏やかな関係を維持しながらその目的を達成していくのかによって、採用するM&Aのスキームは異なります。
 その際、留意すべき点としては、「持ち株比率」です。支配権を持つ必要があるならば、上場会社のような大企業の場合、50%以上が必要となります。さらに、非上場会社であれば、M&A後の企業や事業の経営上100%の取得を目指す必要があります。
 一方、支配権の獲得が必要なければ、そこまでの持株比率にこだわる必要はありません。

売買対価について

 M&Aの本来の目的にもよりますが、売手側企業がM&Aの対価として金銭を欲しているのか、その他の財産(株式など)でもよいのかにより採用するスキームも異なったものになります。M&Aの目的が事業承継であり、多額のキャピタルゲインをもってハッピーリタイアを望むなら、「株式譲渡」を採用するといった対応が必要でしょう。
 一方、株式を売却対価にすると、非上場会社が対象でも留意する必要があります。一般的に非上場会社は換金性が低いため、売却による現金化が難しくなります。そのため、何らかの対応が必要になります。

全部売却か一部売却か

 会社を高く売るためのM&Aのスキームとは、言い換えれば、M&Aによっていかに多くの売却代金、つまりキャッシュフローを獲得できるスキームかということです。
 そうすると、事業の全部、一部を売却する「事業譲渡」や「会社分割」よりも、「株式譲渡」あるいは、「合併」といったスキームのほうがより多くの売却代価が得られます。
 そして、その売却代価が現金、キャッシュフローとなると、「合併」といった売却代価が自社株となる会社法上の組織再編行為よりも「株式譲渡」ということになります。
 そこで、次に「株式譲渡」を使ったM&Aで、いかに高く会社を売却するか、売買交渉テクニックについて見ていきます。

会社を高く売るための交渉テクニックやポイント

 具体的な交渉をはじめる前に、押さえておくべきポイントとしては、自社をサポートしながら交渉を進めてくれるM&Aアドバイザーを選ぶこと、「ノンネームシート」、「IM(インフォメーション・メモランダム)」などの必要な開示情報を早めに準備しておくこと、そして相手企業情報も早めに確保しておくことです。

具体的な交渉テクニック

 一般的なM&Aにおける売却交渉の方法としては、相対交渉と競争入札の2つがあります。自社の希望する売却価格と買手側候補の情報から、相手候補の検討・絞込みと交渉方法の選定とを行っていきます。

相対交渉とは

 相対交渉は、買手候補企業を1社のみとして交渉する方法です。メリットとしては、買手候補企業と今後の経営方針など十分に検討できるため、M&A後の企業成長性について相互に理解を得やすいことです。デメリットとしては、十分時間をかけて検討できるということは、逆に買手候補企業に交渉の主導権を握られ、希望した売却価格に至らないこともあるということです。

競争入札とは

 競争入札は、複数の買手候補企業と同時に交渉する方法です。複数の買手企業候補が提示した売却価格から、より有利な条件で価格を選べるというメリットがあります。他方、長期間にわたる交渉になるため、売手側・買手候補企業双方にとっても負担が大きく、中小企業などでは敬遠されるようです。この点がデメリットになるでしょう。
 相対交渉、競争入札のいずれがよいかといったものではなく、個々のケースに応じ、使い分けたり両者折衷的な方法も検討すべきでしょう。

 今回は、M&Aで会社を高く売るためのスキーム選びと、そのスキームを使った売却交渉テクニックについて見てみました。