M&Aで、会社を高く売却するための事前準備にはいろいろありますが、そのひとつに事前の開示情報の作成と提供があります。売手側企業が作成し提供するものとしては、「ノンネームシート」や「IM(インフォメーション・メモランダム)」といったものが、買手側からの情報としては、「ロングリスト」、「ショートリスト」というものがあります。
M&Aの本格的なプロセスに先立って準備すべき開示情報としては、売手側企業による「ノンネームシート」と「IM」が特に重要になります。そこでここでは、M&Aで準備すべき開示資料として、これら2つについて詳しく見ていくことにします。
「ノンネームシート」とは
「ノンネームシート」とは、売手側企業名を伏せた匿名の簡単な企業概要です。内容も企業に関する一般的なもので、表現も抽象的なものになっています。通常は、A4サイズの用紙1枚にまとめられているため、「一枚もの」などと呼ばれています。売手側企業から提供されたデータをもとに、M&Aアドバイザーなどが作成するものです。
M&Aを計画している買手候補企業が、提示を受ける売手側企業に関する最初の情報です。これに関心を示し問い合わせてきた企業を、売手側企業とM&Aアドバイザーなどが、買手候補企業のM&Aアドバイザーなどが作成した「ロングリスト」や「ショートリスト」の中から、買手候補を10社程度にピックアップします。
その後買手候補をさらに数社に絞り込むとともに、売手側企業名を公表します(ネームクリア)。そしてより具体的な内容を記した売手側企業についての概要書である 「IM」あるいは、「IP(インフォメーション・パッケージ)」を提示します。こうした一連の流れから、「ノンネームシート」は、M&Aアドバイザーを仲介として、売手側企業と買手候補企業が、間接的ではあるものの最初に接するため、「エントリーシート」として重要なものです。
「IM」とは
「IM」とは、売手側企業に関する社名、具体的な事業内容、本店所在地、主要な営業エリア、従業員に関する具体的な情報、財務内容、具体的な売却条件、その他を記した企業概要書です。M&Aアドバイザーなどが作成し事業者を通して、買手候補企業に開示されるものです。
「ノンネームシート」が紙1枚の簡単なものであったのに対し、文字や図表を交えた20〜30ページに及ぶものです。
「IM」が必要となるのは、売手側企業・買手候補企業双方が、M&Aに期待する戦略上の目的などがより具体的なものとしてイメージできるようになるからです。
売手側企業では、M&Aを利用することで、どれほどの価格で売却できるのかというような条件などがより具体的に把握できるようになること、自社の事業の存続、従業員の雇用確保といったものの実現可能性も明確になってくるといったことです。一方、買手候補企業にとっても、M&Aによるシナジー効果が発現され、将来における継続的な企業価値の創造といったものが、ある程度把握できるようになることです。
「ノンネームシート」による抽象的なイメージから、かなり前進したものになります。
特に、売手側企業にとっては、「IM」内に掲載した自社の事業計画や財務データから、相手側に対して積極的にアピールし、売り込める最後にチャンスですからより重要性は大きいといえます。
その後は、買手候補企業によるデューデリジェンス(DD)により、受動的な立場に移るわけですから、内容の充実した「IM」の作成が必要かつ重要です。
実際に、こうした企業概要書などを作成するのはM&Aアドバイザーなどですから、経験豊富なM&Aアドバイザーであれば、内容の充実した説得力のあるものを作成することができます。そのためにもM&Aアドバイザーなどの選択は慎重に行うことが大切です。
もし、経験に乏しい、あるいはM&Aを積極的に最後まで行わないようないい加減なM&Aアドバイザーなどに依頼してしまうと、IR(投資家向け広報)とあまり変わらない程度のものしか作成せず、M&Aで自社を高く売るチャンスを逃してしまうことになりかねません。
「ノンネームシート」や「IM」の作成と取り扱い上の注意点
「ノンネームシート」や「IM」は、企業に関する機密情報など、重要で繊細な情報がかかわってくるため、作成と取り扱いには細心の注意が必要です。主な注意点は下記の通りです。
機密情報の取り扱い
企業にとって最重要な営業機密情報や、M&Aに関する情報がリークされることによって企業としての業務が成り立たなくなるリスク、対外的な信用問題に発展してしまうリスクがあります。
個人情報の取り扱い
企業には多くの顧客情報、従業員情報などがあります。十分な注意を払わずに作成したり、取り扱ったりすることで、損害賠償請求されたりするリスクがあります。
情報の改ざん
ホームページその他の開示情報が無断で改ざんされるリスクがあります。その結果、対外的信用を失い、業績に悪影響が出てくることが考えられます。
以上、M&Aで会社を高く売却するために必要な開示資料の中の「ノンネームシート」と「IM」について述べてみました。