M&Aにはいろいろと押さえるべきポイントがありますが、会社売却の事前準備も重要なポイントの一つです。M&Aはさまざまな目的の有効な手段として行われますが、いずれの場合も、有利な価格で売却するには入念な事前準備と最適な売却のタイミングで事業を引き継ぐことが重要です。ところが、中小企業経営者の中には、「まだまだ自分は大丈夫」とこれといった事前準備をせず、経営の第一線に立っている方も多く、突然の急病などで業務が滞り、会社の役員・従業員だけでなく親族も混乱し、最悪廃業といったことにもなりかねません。
 M&Aでは、売手側企業・買手側企業が、会社や事業といった売買対象を、「少しでも高く売りたい」、「できるだけ安く買いたい」という双方の利害が対立する中で、売買価格が決定します。高く売りたくても買手が現れなければ売れないし、できる限り安く買いたくても売手にその気がなければ買えないわけです。双方が妥協しながらも適当な売却価格でM&Aを成立させるには、事前準備と売却のタイミングが重要になります。特に、事前準備が不十分ですといずれか一方が不利な条件で契約することになったり、その時点で売買交渉そのものがブレイクしてしまいかねません。
 このようなM&Aによる会社売却の事前準備と売却のタイミングについては、各々の会社が持っているM&Aの目的により異なります。ある会社では少子高齢化による事業承継承継の有効な手段の一つとして、またある会社は事業の多角化などの経営革新のためや事業再生といった経営戦略、事業戦略の一環として売却を行うなど、目的によって、あるいは同じ目的でも個々の会社の事情によってそれぞれ売却のための事前準備とタイミングは違ったものになります。
 それでは、経営戦略、事業戦略あるいは事業承継などのための有効な手段として、M&Aによる会社売却をする際、その売却価格を左右する事前準備を中心に、売却のタイミングについても見ていくことにします。

売却価格を左右する事前準備

M&Aで会社を高く売却するための事前準備として、M&Aアドバイザー等事業者の選定、情報開示、相手企業の情報収集といったものがあります。

M&Aアドバイザー等事業者の選定

 M&Aアドバイザー等事業者は、M&Aを有利に行ってくれるビジネスパートナーですから、M&Aについての経験やノウハウの豊富なM&Aアドバイザー等を選ぶことです。これらの事業者への支払い費用も重要ですが、マッチングもまた重要です。複数のM&Aアドバイザー等と面談し、その相性を見極めることです。

情報開示

 M&Aに際し、開示すべき情報としてまず必要なものは、直近3年分ほどの財務諸表です。当然その内容は、良いほうがその後の価格交渉上有利になります。また、他の会社にない競争優位になり得る特殊な技術、ノウハウ等に知的財産などの非財務情報なども積極的に開示しておいたほうが良いでしょう。
 一方、経営者が高齢で体調が思わしくないといったネガティブな情報は、できるかぎり秘密裏にしておくようにします。

相手企業の情報収集

 M&Aは、相手があっての売買契約ですから、相手側についての情報収集も必須の条件です。その業種は、大企業か中小企業か、あるいはM&Aの目的は等、様々な面から相手側についての情報収集をおこなうべきです。
 このような入念な事前準備をしておかないと、自社がどれほどの価値がありいくらで売却できるのかといった、売却価格や売却条件についての基準がわからないためです。

会社売却に適したタイミングとは?

M&Aでは事前準備も重要ですが、会社を売却するタイミングも重要になります。このタイミングを決める有効なツールとして、以前にも紹介した経営者のモチベーションと会社の業績を関連づけた指標があります。改めて見ていくことにします。

 

 

 

パターン1 モチベーションが高く業績もよい
この場合、あえて会社を売却する必要はなく、本業に専念し企業価値を高めるべき。
パターン2 モチベーションに反して業績が悪い
M&Aによる売却も含め、あらゆる可能性を考えてみる。ただし、廃業は避けるべき。
パターン3 モチベーションは低下、しかし業績はよい
M&Aによる売却をするべき。
パターン4 モチベーションは低下、業績も悪い
売れる時に売ればよいといった姿勢が重要。あせって売ろうとすると買い叩かれる。
このような4つのパターンを参考にしながら、実際に会社売却のタイミング探っていきます。

 M&Aで売却価格を左右するのは、入念な事前準備、そして事前準備を前提にM&Aの各プロセスを進めていく中で、絶妙なタイミングで売却の決定をすることです。
 そのためにも会社売却を考えたならば、早目早目の事前準備をすることが重要です。実際にM&Aのプロセスに入る段階になったら、粛々とその手続きを進め頃合いを見計らって一気に売買契約に持っていきます。
 ずるずると交渉を長引かせているうちに本業がおろそかになり、業績が悪化したり、景気が後退してM&A自体がブレイクしてしまう恐れがあるからです。