今日多くの会社がM&Aを行っています。上場会社のような大規模なものから、中小企業、小規模事業主までさまざまな会社が、経営上の目的のため利用しています。ある会社ではシナジー効果と企業価値の増加のため、またある会社では不採算事業を切り離し、本業に専念することで事業再生を図るため、そして、多くの中小企業が直面している後継者難といった事業承継の切り札として、M&Aは盛んに活用されています。
一般的なM&Aの売買価格は、M&Aアドバイザーなどの仲介のもと、売手側の希望売却価格の提示とそれに対する買手側の希望買収価格とをすり合わせながら決めていきます。ただ、売買価格を含め、売手側・買手側双方が納得する条件でM&Aを成約させるには、トップ面談・交渉、そのほかのプロセスだけでなく、いつM&Aを開始するかといったタイミングがポイントとなってきます。特に売手側にとってこのタイミングは、より重要なものです。タイミングを見誤ると、本来売却できる金額の半分にも満たない額でしか売れなかったり、買手候補そのものが現れなかったりといったことになりかねません。
では、どのタイミングでM&Aを行う旨の意思決定をすればよいのでしょうか。今回は、M&Aによる会社売却のタイミングについて解説していきたいと思います。
M&Aにおける会社売却のタイミング
M&Aプロセスは、通常、M&Aアドバイザー、仲介業者などが間に入り、売手側・買手側双方の会社のトップが交渉を重ねることで進められます。そのため契約に至るまでに早くても3ヶ月、長い時には1年以上かかってしまいます。その間にもこれらの会社の経営環境は刻々と変化していきます。
そのため経営トップは、半年から1年といったスパンで会社売却のタイミングを見極める必要があります。また、このタイミングを見極める上で、いくつかの留意すべきポイントがありますので、これらのポイントについて詳しく見ていきます。
ポイントその①−経営者が高齢化する前に行動を開始する
これは事業承継のためのM&Aの場合です。70代〜80代になっても経営トップにいると、高齢による健康問題が出てきます。健康の悪化に伴い、経営者のモチベーションも低下し業績は悪化、企業価値も下がってしまいます。そのため通常の会社員の退職年齢の60歳前後から、M&Aのための準備に取りかかることです。そして70歳前後には具体的なM&Aについての行動に移る必要があります。
ポイントその②−経営者の事業意欲のあるうちに行動を開始する
これは事業承継だけでなく、経営戦略、事業再生といった目的のためのM&Aについても当てはまるものです。高齢化に伴う場合だけでなく、事業や業界そのものに不安や疑問を感じたりする中で、急激に事業意欲が減退してしまうことがあります。こういったことを想定し、いつでもM&Aによる売却が可能になるよう、日頃から企業価値の増加について努力を怠らないことです。
ポイントその③−業界の動向に注意する
これは事業再編のタイミングを把握するということです。自社の属する業界が成熟してくると、一部大手の会社が独占や寡占化を目指して、同業他社に対してM&Aを行ってきます。このようなタイミングでM&Aを実施すると希望する価格や条件での売却も可能です。ただ、こうした業界再編の動きはいつまでも続きません。適当なところで見極め売却する必要があります。
ポイントその④−景気の動向に注意する
当然のことですが、好景気の時は会社も積極的に投資を行うため、その一環としてM&A
も盛んになります。好景気のはじめにM&Aを行うと、さらに高く売却できる可能性があるため、時期が早すぎると後悔することになります。また、過熱気味になると一気に後退局面になるおそれがあり、売り損じてしまうことになります。時期を見極めることが非常に重要となります。
ポイントその⑤−自社に収益がある段階で売却する
自社の業績がよければ企業価値は上がり、高い価格で売却が期待できます。会社のライフサイクルで言えば、成長期から成熟期の早い時期までのタイミングが目安となります。成熟期の後半から衰退期に入ってからでは興味を持ってくれる会社は激減します。
ポイントその⑥−自社の経営資源に着目
自社に他の会社にない、競争優位となり得る経営資源に注目します。独自の技術・技能、ノウハウ、人材といったものがあれば、こういった経営資源が業界で必要となった時、売却タイミングが訪れるということです。たとえば新たな技術革新が必要な時期に、必要な経営資源を持ち合わせているならば、売却のタイミングとしてはよい時期となります。
M&Aを成功させるには、M&Aを実行する旨のタイミングを見極めることが重要です。タイミングよくM&Aを行うには、常日頃からの企業価値のブラッシュアップと、景気動向や業界の動きといったミクロ・マクロの両面から自社を見ていく必要があります。