M&Aには、多くのスキーム(手法)があります。「株式譲渡」、「事業譲渡」、「合併」、「会社分割」、「株式交換・移転」といったものが代表的なものです。これらのスキームの中で、中小企業・小規模事業者などを中心に最も多く利用されているものが「株式譲渡」です。
この「株式譲渡」は、売手側企業の経営者が保有している自社株を売却するものです。経営者は自社株譲渡とともに会社の経営権を買手側企業に移転します。そして、その見返りとして高額な売却代金を直接取得することになります。
ただ、売手側企業の経営者は、その売却代金のすべてを入手できるわけではありません。「株式譲渡」により売却益が生じれば、それに対する所得税が課されます。また、M&Aでは通常、M&Aアドバイザーなどの業者が売手側・買手側企業の間に入って売買交渉を進めていくわけですから、こうした事業者への仲介手数料・報酬といったものも必要になります。
そこで今回は、「株式譲渡」における売却価格を中心に、それに対する税金やM&Aアドバイザーなどへの仲介手数料・報酬について述べてみたいと思います。
M&Aにおける売却代金と税金及び仲介手数料について
まず、M&Aにおける売却価格の決定プロセスを簡単に見ておきます。売却価格を決める前提として、売買対象企業の企業価値を算定します。これをバリュエーションなどと呼びます。M&Aのバリュエーションで利用される算定方法としては、「時価純資産法」、「DCF法」、「類似上場会社比較法」が一般的なものです。各々一長一短ありますが、M&Aにとって最も理にかなった方法としては「DCF法」が適していると思われます。
こうして算出した企業価値に、売買対象企業がM&A後、シナジー効果により増加する超過収益力を「のれん」として上乗せし、実際の売却価格が決まります。
売却代金と税金
M&Aにおける「株式譲渡」で課税の対象となるのは、株式を売却した個人株主や法人株主です。特に、中小企業では、オーナー経営者がその対象となります。このような税金は最終的にオーナー経営者などの譲渡側株主の最終的に入手できるキャッシュフローに大きく影響してきますから、税理士と十分協議しておく必要があります。以下、「株式譲渡」における税務上の処理についてまとめておきます。
【売手側株主または企業】
個人株主に対しては、売却益に対して20.315%(所得税15.315%、住民税5%)が課税
法人株主に対しては、売却益に対しては実効税率約40%の法人税が課税
【買手側企業】
対価を支払って株式を取得しただけのため課税対象外
【売買対象企業】
売手側企業のことで、この場合、会社自体は売買の主体ではないため課税対象外
ちなみに「事業譲渡」では、売手側企業が売買の主体であるため、売手側企業が課税対象となることと、「事業譲渡」が消費税法上の取引であるため、消費税が課されることになります。
そのほかにも、M&Aの対価が現金以外の相手企業の株式の場合でも、税法上適格組織再編に該当しないスキームを採用すると、課税の対象となりキャッシュフローがマイナスになってしまうこともありますから、事前に税理士の説明を受けておくことが重要です。
売却代金と仲介手数料
M&Aアドバイザーや仲介業者の仲介手数料や報酬体系は「レーマン方式」といった特殊なものです。取引金額に一定の料率を乗じて算出するものです。
また、仲介手数料や報酬の種類には「着手金」、「中間金」、「リテイナーフィー」、「成功報酬」といったものがありますが、「成功報酬」以外、M&Aが成約しなくても発生するもので、返還されない仲介手数料ですから注意が必要です。
こうした仲介手数料・報酬といったものは、具体的なM&Aに先立つ FA契約で決められるものですから、これらの算定の基礎となる取引金額をある程度把握しておくためにも、事前のバリュエーションが必要になります。また、こうした料金体系についての予備知識を持っておくことも必要です。
「株式譲渡」ではM&Aの対価がオーナー経営者に直接入ってきますが、その中にはM&Aアドバイザーなどへの仲介手数料や報酬、そして税金が含まれているということを忘れてはいけません。