M&Aにおける会社売却では、売手側企業は、売却価格をできるだけ高くしたい。一方、買手側企業では経営戦略上、将来における価値の最大化、そのためにはコストを抑えた企業買収が重要になってきます。
 このように売手側・買手側双方において利害が異なる中で、売手側企業がいかに自社の評価を高め、有利な価格で売却するためには、事前の入念な準備手続きが大きく影響してきます。そのためには、自社の会社概要、事業内容といった一般的なものから、経営上の強みとその活用、弱みとその解決・対応策、事業戦略と計画などといったものを定量化し、かつ具体的な言葉で明確にしておく必要があります。

 M&A開始の段階では、買手側候補企業やM&Aアドバイザー、仲介業者などの第三者にとって、売手側企業はまったく未知数の存在です。こうした状況の中でも、かなりの資料や情報が得られるよう事前の準備がしてあれば、こうした第三者的立場の人たちからの好印象を得ることができます。その後の本格的なM&Aの手続きも順調に進み、最終的に高い評価での売却も可能となります。

一般的な事前準備としては、「経営上の欠陥やリスクの治癒」、「経営資源の補完」、「シナジーのシミュレーション」、「事業計画の策定」などがありますが、ここでは「シナジーのシミュレーション」に焦点を当てて見ていきます。

M&A事前準備としてのシナジーのシミュレーションとは

そもそも「シナジー」とは、そして「シナジー効果」とは何かを明らかにしてから、「シナジーのシミュレーション」の内容を見ていきます。

「シナジー」とは何か

「シナジー」とは、個々の活動の総和以上の効果を生み出すことと定義されています。例えば、普通の技能しか持ち合わせていない従業員が2人いても2人分の仕事しかできないところ、有能な人が2人いれば、3〜4人分の仕事をこなしてしまう場合などに、「シナジー」が生じるなどといいます。1960年代から主に経済用語として使われ出したものです。

「シナジー効果」とは何か

「シナジー効果」とは、ビジネスの面から見た「シナジー」のことです。ビジネスにおいては、合弁事業やM&Aなどにより各企業が自社に不足の経営資源を相互に補いながら、大きなビジネス上の利益が出た場合などに「シナジー効果」が出たとか、「相乗効果」が出たなどといいます。

 ちなみに、マイナス効果しか出ない場合を「アナジー効果」といいます。

M&Aの事前準備としてのシナジーのシミュレーションとは

M&Aに先立ち、売手側企業がシナジーのシミュレーションを行う場合には、企業価値増加の考え方を、買手側企業と常に共有することを前提とすること。そして数値はキャッシュフローベースで把握するという点に留意が必要です。

シナジー効果をシミュレーションする場合のキャッシュフローは

シナジー効果による売上増加、利益増といったキャッシュインフローの増加と、同じく、シナジー効果によるコスト削減、設備投資の中止といったキャッシュアウトフローの減少などによる数値の把握ということです。
 また、これらのシナジー効果を買手側企業の面からシミュレーションするのは当然、売手側企業の面からもシミュレーションすることで、M&A後の連結ベースでのキャッシュフローの大幅な改善と企業価値の大きな増加といった捉え方が重要となります。これが売手側・買手側双方による企業価値増加という考えの共有ということです。

事前の準備としての、シナジーのシミュレーションは、売手側自身の市場環境、競合他社、経営資源、経営成績、財務状況、その他の詳細なデータの収集、同様に買手側企業の詳細なデータの収集から、M&A後の企業価値をシミュレーションするわけですから相当骨の折れる作業になります。ただ、ここをしっかり時間と労力をかけて実行するか、中途半端に終わらせてしまうかによって、最終的な買収条件や買収価格が大きく違ってくるというのも厳然たる事実です。