M&Aでは、売手側企業が事前の準備を怠ったり、準備不足のため、本来売却できる価格で売却できなかったり、M&Aそのものが破綻してしまうことがあります。
売手側企業では、とりあえず会社が運営できているならば、自社の経営上の欠陥やリスク、あるいは経営資源、とりわけ競争優位となり得るものなどについて、特に意識することはありません。
一方、買手側企業では、M&Aを経営戦略の一環として捉えています。買収対象企業に対しては、できるだけ経営上の欠陥やリスクがなく、また、競争優位となり得る経営資源を多く有している場合に、高い評価を行います。少なくとも、売手側企業では、M&Aを視野に入れているならば、買手側企業のこうした事情を認識し、M&Aに先立って、事前にできるものはやっておく必要があります。
M&Aで会社を高く売却するための事前準備
M&Aに際し、売手側企業ができるだけ自社を高く売却するために実行すべき事前の準備としては、まず、売手側企業が単独で行う「経営上の欠陥やリスクの治癒」です。そして、買手側企業を前提とした「経営資源の補完」、「シナジーのシミュレーション」、「事業計画の策定」などがあります。企業価値の増加といった視点を持ちながら、これらの事前の準備を実行していくことで、本格的なM&Aにおいて、高い企業価値の評価や高い売却価格が期待できるのです。
ここでは「経営上の欠陥やリスクの治癒」が行われた後の「経営資源の補完」について見ていきます。
経営資源とは何か
経営資源とは、企業が経営を行っていく上で有用な経営要素や経営能力のことです。どれほど優れた経営資源を有するかで、企業の経営力や競争力といったものが決まります。
主な経営資源としては、「人」、「物」、「カネ」、「情報」などがあります。これらの経営資源の内容と経営資源の補完による、その有効活用などを見ていきます。
「人」
経営資源としての「人」とは人材のことです。社員、従業員、パート、アルバイトといった人たちのことです。生産現場で実際に生産に従事したり、ビジネスの分野でセールスを行ったりと、企業のすべての経営資源と密接不可分な関係にあります。
近年、経営資源としての「人」の不足が深刻な社会問題となっています。
「物」
経営資源としての「物」には、企業の有する、製品、仕掛品、原材料、建物、機械、設備などさまざまな有体物や一部無体物があります。
これら経営資源としての「物」は、一般的には経営戦略や事業戦略などに取り入れられ、管理されています。
「カネ」
経営資源としての「カネ」とは、資金のことです。「人」を雇用し、「物」を購入、調達するためには「カネ」が必要です。
「カネ」は、財務、会計、税務などの部門で管理されます。また、キャッシュフローといった尺度で把握することが重要です。
「情報」
経営資源としての「情報」は、企業が有する顧客データその他の社会との関係性などです。IT技術の進歩とともに、第4の資源として重要なものになってきました。これからの企業経営にとって必要不可欠な経営資源です。
近年では、ナレッジマーネジメントといった形で管理されたりしています。
経営資源の補完による有効活用
売手側企業は、上記のような自社の有する経営資源を単独で活用するには限界があること、そのため外部から新たな経営資源を調達することで、本来の経営的効果が発揮できることなどを、客観的で信ぴょう性のある数値で積極的にアピールすることです。
例えば、売手側企業には高品質の製品やサービスはあるが、これらを販売してくれるセールス担当が少ない。自社製品の売上は伸びているが、生産設備の老朽化から増産できない。自社だけでは設備投資できない場合、外部から「人」、「カネ」といった経営資源を調達できれば、同業他社に対して、競争優位に立てるなど強く表明することです。
「経営資源の補完」を含む、一連の事前準備を入念に行うことで、買手側候補企業から、自社の経営戦略上の観点から関心を持ってもらえるなら、本格的なM&Aの手続きへと進むことも期待できます。