中小企業が行うM&Aでは、想定していた価格よりも低い価格を提示されてしまうことがあります。
確かに、買手側企業には、買収に対して支払うことができる予算には上限がありますから、できるだけ低い金額に越したことはありません。ただ、こうした低い価格を提示されてしまう原因は、売手側企業にもあります。それは事前の準備が十分にされていないため、買手側からの高い評価が得られていないということです。
有利な条件で会社を売却するために、必要な事前準備としては、まず、自社の経営上の課題や問題点を検証し、改善策を立てて実行しておくこと。そして、自社のはらんでいるリスクを洗い出し、未然に防止する対策を立てておくことです。
以下、経営上の問題やリスクの解決策(治癒)について見ていきます。
営業上の問題(欠陥)とその解決策(治癒)
日々の業務を行ってく中で、自社のビジネス上の問題点や課題点といったものは、あまり意識することがありません。
一方、買手側企業では、こういった点を重視し、ビジネス上の課題点、問題点の有無がその後の企業価値の算定に大きく影響していきます。
そのため、売手側企業では、自社のビジネスを一般的、客観的な数値モデルで算出し、理論的な売上、収益あるいは、利益といったものを弾き出します。そして、過去から現在までの実数値と比較し、その乖離原因を特定します。その後、改善策を立て、実行することで営業上の問題(欠陥)を解決(治癒)し、本来その企業のあるべき状態に業績を回復しておくのです。こうすることで、次の営業資源の補完やシナジーのシミュレーション、事業計画の策定などの事前準備へ移行することができ、有利な企業価値へと結びついていきます。
経営上のリスクとその解決策(治癒)
M&Aのプロセスには、デューデリジェンス(DD)といったものがあります。売手側企業が、当初開示した情報以外のリスクをはらんだ問題点はないかなどを監査するものです。デューデリジェンス(DD)による監査事項は相当ありますが、自社について指摘されやすい事項については、あらかじめ想定し、解消策を講じておく必要があります。実際、デューデリジェンス(DD)の場面で問題点を指摘された場合、これから対応しますと解答するのと、すでに対応済み(治癒)ですと解答するのとでは、買手側企業の評価が大きく違ってきます。
M&Aでは、買手側企業は、売手側企業に比べ、多くのリスクを負います。一般的に、買手側企業は、買収対象とする企業についてほとんど知らない状況の中で、M&Aを
開始することになります。限られた時間や予算の中で、売手側企業のビジネスモデルやその企業が抱えている経営上の課題や問題などを把握していかなければなりません。このような限られた状況下で、意思決定を行うことが買手側企業にとってのリスクの根源です。
また、買手側企業の事業とは異なる業種の場合、その経営環境や商習慣、行政や法令上の規制、税制の違いなどから、リスクはより多くなってしまいます。しかもこうしたリスクは、M&A後に顕在化し、その後の事業の足かせになることもあります。
売手側企業では、想定し得るリスクについて事前に排除しておいたり、リスクを軽減するなどして、買手側企業の不安を解消することが大切です。なお、買手側企業において想定される一般的なリスク事項としては以下のようなものがあります。
財務・税務面について
不良債権、不良在庫、簿外債務、偶発債務、未払法人税・事業税などの有無について。
人事・労務面について
従業員と会社間における労使関係に問題はないか。キーパーソンや優秀な人材の流出はないか。
生産設備・技術面について
生産設備は問題なく稼働するのか。特許やビジネスモデルなどは法的に保護されているか。
このように、経営上の問題(欠陥)やリスクをあらかじめ解決(治癒)することで、その後の手続きがスムーズに進み、企業価値の評価や売却価格の決定をする上での大きなメリットへとつながるのです。