中小企業が行うM&Aでは、本来売却できる価格よりも、だいぶ安い価格で買収されることが多く見受けられます。その原因としては、まず、中小企業のオーナーがM&Aについての知識に乏しいため、何をしてよいのかわからないこと。そして、日常の業務に忙殺され、M&Aのための知識を習得のための時間が取れないことなどにあります。
このようなことから、事前の準備が不十分で、本来、自らが時間をかけて準備しておけば有利に売却することも可能であるのに、M&A業者に丸投げして買手側企業の言い値で売却することになってしまうのです。売手側企業のオーナーが、少しでも自社を高く売却するために行うべき、事前の準備とはどういったものか見ていくことにしましょう。
会社を高く売却するためのM&Aの事前準備
一般的には、買手側企業やM&Aアドバイザー、仲介業者などの第三者的な立場にある人たちにとっては、売手側企業について全くと言ってよいほど知らないのが実情です。
自社を有利に売却するための事前準備としては、次のようなものがあります。
開示情報・事前準備をする
通常、M&Aは膨大な開示情報が必要になります。M&Aプロセスの各々のステージで開示情報が要求されますが、事前に収集できる情報などは、本格的なM&Aの手続きに入る前に、余裕を持って準備しておくとよいでしょう。
定款、株主総会議事録、商業登記簿、就業規則、取引先との各契約事項、行政許認可証などは比較的容易に集められる情報です。
事前準備としての経営上の欠陥やリスクを治癒する
自社の経営上、当面問題ないと思える部分でも、買手側企業、第三者的視点から見て問題ありと思われるならば、あらかじめ治癒しておく必要があります。特に、デューデリジェンス(DD)においては、ダメ出しとしての位置ずけになりますから、デューデリジェンス(DD)前には、治癒すべき欠陥やリスクは排除したり、できるだけ軽減しておくことです。これからやりますというのと、すでに解決済みですというのとでは買手側企業に与えるイメージに大きな差があります。
デューデリジェンス(DD)では、未払残業代・保険料、不良債権、不良在庫、簿外債務、取引先などとのトラブルから訴訟へ発展するリスクなどが対象となりますが、解決できるものはできるだけしておくべきです。
事前準備としての経営資源を補完する
企業にとって重要な経営資源は、「人」、「物」、「カネ」、「情報」などです。
人(材)については、自社には優秀な技術者はいるが、営業に秀でたセールス担当がいない。製品の売上に生産設備が追いつかない、新たな設備投資をしたいが、単独では限界があるなどの経営資源で課題があるが、他社からの経営資源の補完を受ければ、大きな価値の向上が見込めるということを客観的な数値で、わかりやすく説明し、アピールすることです。
事前準備としてのシナジーのシミュレーションを行う
M&Aによるシナジー(効果)は、2つの企業がお互いに何らかの影響をし合いながら、経営上新たな付加価値を生じさせることです。買手側企業により大きなシナジー効果があったり、売手側企業にもシナジー効果があったり、さらには今までとはまったく違った効果が期待できたりします。
買手側・売手側企業双方の立場から行うことが重要です。複雑で面倒な作業ですが、これを行うことで、売却価格が一気に上昇することもあります。
M&Aのための事業計画の策定
これら一連の事前準備を行うとともに、事業計画を策定します。一般的な事業計画というと、銀行などからの融資のためのものを連想しますが、M&Aのための事業計画の策定は、その目的が違っています。融資目的のものは、返済可能性が重視されますが、M&A用のものは、将来のおける企業の成長、発展そして企業価値の増加といったところに重点が置かれます。入念な事前準備に基づく事業計画によって、買手側企業の最終的な買収の意思決定に貢献するものなのです。
以上のような事前準備、そして事前のM&A事業計画の策定などの手続きを行うことで、実際のM&Aでの価格交渉では、自社の企業価値が高まり、少しでも有利に売却することが可能になるのです。
銀行から新規融資を断られたり、毎月の返済が大変で、資金繰りが不安であったりするなど、事業再生に関してお悩みの方には事例で学ぶ事業再生のリアルがおすすめです。